大判例

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東京高等裁判所 昭和58年(う)1788号 判決

所論は,要するに,本件は,信号に従って交差点内に進入した被告人車が信号に従わずに漫然交差点内を横断歩行していた被害者2名と衝突したものであるところ,被告人が被害者らを発見するのが若干遅れたのは,被告人車の進路である道路左側部分に較べて右側部分が著しく暗かったことに起因するうえ,被告人には,本件交差点内に交通法規に従わない歩行者がいることについての予見可能性がなかったし,また車両運転者にとって歩行者が信号表示に従って横断歩行してくれるものと信頼することは許されるべきであるから,原判決が信頼の原則を適用せずに被告人の過失を肯定したのは事実を誤認したもので破棄を免れないと主張する。

しかし,原判決が本決において信頼の原則を適用せず,被告人につき過失を肯認したのは相当であって,所論にかんがみ記録を精査しても原判決に所論のような事実誤認があるとは認められない。

すなわち,関係証拠によれば,本件は,被告人が深夜の午前1時45分ころ普通乗用自動車を運転し,車道幅員約12メートルで片側一車線の歩車道の区別のある道路を時速約40キロメートルで走行中,本件交差点にさしかかり,青色信号に従い右交差点を直進しようとした際,酔余赤色信号を無視して交差点内中央付近を右から左へ横断歩行していた本件被害者2名(当時35歳と32歳)を約13ないし14メートル先に初めて発見し制動措置をとることができないまま自車前部を両名に衝突させたことが明らかであり,これに反する証拠は存在しないところ,本件交差点出口南側横断歩道の左側に街路灯があるため,交差点手前の停止線から約40メートル手前(本件衝突地点からは約51.4メートル)の地点から本件衝突地点付近に佇立する人物を視認できる状況にあり,しかも被害者の服装は,一名が白色上衣,白色ズボン,他の一名が白色ズボンであったから,被告人は通常の注意を払って前方を見ておれば,十分に被害者らを発見することができたと認められる。なるほど,被告人車の進路前方右側は左側に較べて若干暗くなっているけれども,被告人の実況見分の際の指示説明や司法警察員,検察官に対する各供述調書,被害者猪股敬喜の司法警察員に対する各供述調書によれば,被告人が最初に被害者らを発見した段階では,すでに被害者らは交差点中心よりも若干左側部分に入っており,しかも同人らは普通の速度で歩行していたと認められるから,前記見通し状況のもとで,被告人が本件の際被害者らを発見する以前に同人らを発見することは十分に可能であったと認められる。

そして,本件が発生したのは午前1時45分ころという深夜であって,交通量も極めて少ない時間帯であったこと,関係証拠によると本件事故時には被告人車に先行する車両や対向してくる車両もなかったし,本件道路が飲食店等の並ぶ商店街を通るものであること,その他前記本件道路状況等に徴すると,交通教育が相当社会に浸透しているとはいえ,未だ本件被害者のように酔余信号に違反して交差点内を横断歩行する行為に出る者が全くないものともいいがたく,したがって,本件において,被告人が本件交差点内に歩行者が存することを予見できなかったとはいえないし,また,車両運転者が歩行者に対し信号表示を看過して漫然横断歩行することはないとまで信頼して走行することは未だ許されないというべきである。本件において,被告人は前示のように通常の前方注視義務を尽くしておれば被害者を相当以前に発見して本件事故を回避し得たと考えられるのであって,前記のように解したからといって,被告人に過酷な注意義務を負わせることになるものでもない。

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